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RIMIJMARA - Traditional Aboriginal Music - Music from Wandjina People
ジャケット写真
NO LRF249
Artist/Collecter Lorrie Utemorrah(songman) Louis Karadada(didjeridu)
Media Type CD
Area 北キンバリー
Recorded Year 1987
Label Larrikin Entertainment
Total Time 39:07
Price 廃盤
Related Works
Authentic Aboriginal Music Songs from the Kimberleys BUSHFIRE - Traditional Aboriginal Music Songs of Aboriginal Australia Aboriginal Music from Australia - Unesco Collection Musical Sources  
1.Wongga- Initiation Song
2.Wongga- Initiation Song
3.Wongga- Initiation Song
4.Wongga- Initiation Song
5.Wongga- Initiation Song
6.Wongga- Initiation Song
7.Wongga- Initiation Song
8.Wongga- Initiation Song
9.Wongga- Initiation Song
10.Wongga- Initiation Song
11.Wongga- Initiation Song
12.Wongga- Initiation Song
13.Wongga- Initiation Song
14.Wongga- Initiation Song
15.Wongga- Initiation Song
16.Wongga- Initiation Song

23.Balga - Bush Fig
24.Balga - Night Fishing
25.Balga - Spirit Man
26.Balga - Sea Storm
27.Balga - Dust Song
28.Balga - Out with the Tide
29.Moraburr - Puppy Dog
30.Moraburr - Wrong Road
31.Moraburr
32.Moraburr - Island Currentg
33.Moraburr - Flying Fox
34.Moraburr - Island in a line
35.Djuba - 15 August 1987
36.Djunba - Billy King
西オーストラリア州北キンバリー地方WunambulクランのWANGGAダンスソングを16曲収録。すでに廃盤ですが同じ内容のCDが「Authentic Aboriginal Music - Music from the Wandjina people」として再発されています。

Rimijmaraとは

■レビュー概要
■曲解説

このCDはLarrikin Entertainmentより1997年に発売され、その後版権が売却されたのかARC Musicより「Authentic Aboriginal Music - Music from the Wandjina People」という別タイトルで発売され、現行品はこのタイトルのものしかなく、初版であるLarrikin版の「Rimijmarra」はネット上にまったく情報がなく、オーストラリアの公立図書館などではちらほら見かけるのですが、一般市場では20年探し続けて1枚だけ発見しました。

音源としての内容は全く同じで、Larrikinバージョンのジャケットの方がデザイン的にWandjinaスピリットが描かれていてクールなのですが、4Pぺらのジャケットで情報量が少なく、ARCバージョンの方が文字情報が多くてお得感があります。

全36トラック中、ディジュリドゥの伴奏があるのは北キンバリー地域のKalumburuコミュニティで録音されたWANGGAダンスソングが16曲収録されています。 残りはクラップスティックと唄という組み合わせでイダキ・ヘッズにとっては前半16曲が聞きごたえのある内容となっています。

Wadeye(Port Keats)から伝えられたWANGGAだそうで、言語が異なるため、一部ラララなど正確な歌詞で唄われてはいませんが、Kalumburu在住のソングマンLorrie Utemorrahのオリジナリティを感じるメロディー変容や、シンプルながらも他のKenbi(ディジュリドゥ)奏者には見られない伴奏パターンが特徴的なLouis Karadadaのディジュリドゥ演奏もKenbiマニアには見所です。

おすすめはトラック1、2、9、14でソングマンの熱量、唄のメロディーライン、ディジュリドゥの伴奏ともに聞きごたえがあります。ディジュリドゥの音をしっかり聞くにはトラック11以降の、おそらく室内で録音したトラックが音量もあって聞きとりやすい。

■Rimijmaraとは

オーストラリアのはるかキンバリー地方の北部沿岸部に位置するKalumburuアボリジナル・コミュニティで録音された音楽です。参加アーティストは、Mitchell高原とKalumburu地域の伝統的なランドオーナーであるWunambul族のみなさんです。

このカセットにはオーストラリアに4万年以上前から伝わるアボリジニーの音楽が収録されています。当時とほとんど変わらない音楽が、アボリジニーの作家であり歌い手であるボブ・メイザにより演奏されています。4万年の時の流れを越えた、音のタイム・カプセルと言ってもいいでしょう。

このCDに収録されているWONGGAという音楽は、キンバリー西部からノーザンテリトリー州まで広く知られています。ソングマンたちは古い伝統的な唄に新しい息吹を与え、新しい唄を広めるために広範囲に渡って旅をする。音楽をかなでるアーティストたちは、それぞれ自分自身のスタイルを持っている。例えば、キンバリー地方でもっとも著名なソングマンの一人Lorrie Utemorrahは、力強い特有なスタイルの唄い手です。ここに収録されているWONGGAソングはすべて公にオープンに演じられるイニシエーションの唄で、中には秘匿とされるものもあります。

WONGGA以外にもBANDRRU、MORABURR、BALGA、DJUNBAの4種類のスタイルの唄が収録されています。BANDRRUはキンバリー地方の北に位置する数多くの島々に影響を受けた「アイランド・ソング」で、海にまつわる物語を数多く保有しているJEFFEY MANGOLAMARAがリード・シンガーです。BALGAとDJUNBAは常にクラップスティックに下支えされた、男女のボーカルのハーモニーの絡み合いが特徴的です。すべての唄には気楽なものからシリアスなものまで語られるべき物語があり、同時代的なものから世代を超えて伝わるものもある。MORABURRソングは特に海にまつわる物語に関した簡素なバラードです。

■レビュー概要

このCDのジャケットに描かれているアートは「Wandjina」で、西オーストラリア州のキンバリー地方に残る壁画に描かれている精霊です。民族学者のAlice M. Moyleによると「Wandjinaとは西オーストラリア州北部のキンバリー地方のNgarinyin、Wororra、Wanambulの3つのクランにとって全ての創造主である最高位の精霊」とのこと。

このCDが録音されたKalumburuコミュニティは、西オーストラリア州の東北の沿岸部に位置し、緯度的にはノーザンテリトリー州のWadeyeコミュニティくらい。WANGGAダンスソングの中心的な場所として知られるWadeye(Port Keats)からDarwinまでが直線距離で北東に250km、Wadeyeからまっすぐ西に直線距離で300kmにKalumburuが位置します。

Kalumburuを含むキンバリー地方全体の音源を収録した「Songs from the Kimberleys」(LP/CD)を録音したAlice M. Moyleによれば、「歌のレパートリーから、キンバリー地域の人々と、Port Keatsのアボリジナルの人々との接触がずっと維持されているという事がわかる。特に、KununurraとDerbyで演奏されるディジュリドゥの伴奏をともなった歌は、Port Keatsに住むその歌の所有者に捧げられている。」とある。

このCDに収録されているWANGGAは、Wadeyeから伝播してきた曲、あるいは影響を受けた曲と言えるかもしれません。現在ではわかりませんが、伝統的にディジュリドゥが演奏される地域の最西端は西オーストラリア州のDerby周辺までと考えられています。収録された音源を元に分析すると、1960年代頃まではDerbyとBorroloolaを結ぶ線より北側だけで、ディジュリドゥが演奏されていたと考えられるかもしれません。

トラック1-12のWANGGAソングの伴奏に使われているディジュリドゥは「E- -」のピッチで、WANGGAを伴奏するにはやや低めであることからか、ソングマンの声は張り上げるような唄い方ではなく、 やや素朴で朴訥とした雰囲気になっている。

WANGGAはディジュリドゥのピッチをベースに唄われるため、一般的に「ディジュリドゥ→クラップスティック→唄」という順番、あるいはクラップなしという形のディジュリドゥが先行する形で導入される。このCDではクラップスタートという形式の曲もあり、WANGGAの常識をくつがえす内容となっています。

トラック1〜16にディジュリドゥの伴奏をともなったWANGGAダンスソング、そしてトラック18〜36には女性も参加したクラップスティックと唄だけで構成された唄が収録されています。クラップスティックと唄という組み合わせの曲に、女性が参加するということもアーネム・ランドでは珍しいことでしょう。

この地域の伝統音楽の音源そのものが少ない上、近代の音源はほとんどCD化されていないため、現在この地でどういった曲が唄われているのか、実際に訪れてみたいものです。

■曲解説

1. Wongga - Initiation Song2. Wongga - Initiation Song3. Wongga - Initiation Song4. Wongga - Initiation Song5. Wongga - Initiation Song6. Wongga - Initiation Song7. Wongga - Initiation Song8. Wongga - Initiation Song9. Wongga - Initiation Song10. Wongga - Initiation Song11. Wongga - Initiation Song12. Wongga - Initiation Song13. Wongga - Initiation Song14. Wongga - Initiation Song15. Wongga - Initiation Song16. Wongga - Initiation Song
※曲名をクリックするとその曲の解説へ飛びます。

1. Wongga - Initiation Song

ライナーの翻訳にあるようにWANGGAやGUNBORRKダンスソングは、唄の持ち主であるソングマンが広く旅をして自らの唄を広める。結果的に、言語の壁を超えて唄が広まることで、歌詞が消失し「ララララ」で唄われることがある。

トラック1は一つの単語の反復と「ララララ」で唄われており、このメロディーラインはある有名な曲と思われるが、若干のメロディーの独自性があり、この土地のソングマンによるメロディーの改変があるようです。大抵の場合WANGGAダンスソングは、Kenbi(ディジュリドゥ)から始まって、唄かクラップスティックが続くが、この曲は長いクラップスティックだけの前奏から始まっている。

唄が6拍周期で展開されているのに対して、Kenbiは「Lidu- Lidu- mor」といった裏拍からスタートする3拍周期で伴奏されている。愚直に一定に同じリフを繰り返す遊びの少ない演奏が、エンディングの部分のみトリッキーに演奏されている。

2. Wongga - Initiation Song

3回叩いて1回休符というWANGGAで典型的な4拍子のクラップスティックのパターンに、前述のように歌詞が消失した「ナーエナァィ」という「ララララ」に近い感覚で唄われている。Kenbiはクラップスティックに対して半分の2ビートの中で「Lidu-mor」という一番シンプルなマウスサウンドでの演奏に徹しているが、スピード感のある2拍3連が心地よい。GUNBORRK的にも響くダイナミックな演奏。

3. Wongga - Initiation Song

Kenbiは「Lidumo Lidun--mor」といったマウスサウンドを4拍周期の中で演奏している。「Lidun--mor」の「Li」は裏拍から入ることにより、のっぺりしがちなWANGGAに4ビートを3で割ったグルーヴ感が加えられている。

テンポ自体が速めでありながら、細かく刻んだマウスサウンドをなめらかにフィットさせていて、ハミングでしっかりと支えられた堅実な演奏感が光る。ソングマンの力強い唄いっぷりをカチっとフォローしている好演奏。

4. Wongga - Initiation Song

Kenbiはトラック3と同じリズムパターンとテンポ。曲中でソングマンがクラップスティックをストップ&ゴーさせる珍しい展開で、背景で聞こえるダンサーたちのステップがソングマンのクラップスティックに合わせてピタっと止まっているのがわかる。

5. Wongga - Initiation Song

トラック2と同じリズムパターン。この曲ではソングマンは具体的な歌詞を唄っているようで、メロディ展開も多め。

6. Wongga - Initiation Song

トラック3と同じリズムパターン。ここでも「ナァーラァー ラァーヤァヤァヤァィ」といった歌詞のないメロディーラインが唄われています。

7. Wongga - Initiation Song

Buffalo Songとして知られるJimmy Mulluk作曲の「Puliki」のリズム展開に似ていますが、こちらの方がシンプル。クラップスティックなしの歌に続いて、ダンスの見せ場としてのクラップスティックの連打というセットが反復されます。

8. Wongga - Initiation Song

夜間に録音されているのか、なかなかの音量の虫の声をバックに、ゆったりとした4拍子の頭だけをたたくクラップスティック付きの歌唱部分から、「Dee- Dee- Dee-」という掛け声と共に2倍の速度でクラップを叩くブレイク部分を2セット繰り返しています。

トラック7-8は唄が間のびしてクラップスティックがなくなった後に、1回だけコンっとクラップスティックをたたくのを合図にブレイクがスタートしていて、そこにしっかりと反応したディジュリドゥの伴奏がクール。

9. Wongga - Initiation Song

唄がはじまる直前に小声で今からやる曲のマウスサウンドを伝えている。ディジュリドゥは「LidumoLidu-mo-」という4拍子を正確に反復している。このパターンはCD「Rak Badjalarr」のトラック13の「Karra balhak-fe belleny nyebindjange」と同じでWANGGAで広く使われるパターンのようです。唄のメロディー変化はディジュリドゥとユニゾンしない、3拍子をベースにしているような不可解なパターンで、ソングマンのリズムの取り方がかなり独特。

そしてディジュリドゥの周期を無視するかのように「Itiiti- iti- iti- -」という5拍子をディジュリドゥとユニゾンしてのエンディングになっている。WANGGAの曲としてはかなりトリッキーなパターンで、まるでGUNBORRGのような展開になっています。

10. Wongga - Initiation Song

BelyuenコミュニティのWANGGAのディジュリドゥの伴奏では、2拍3連をベース演奏されることが多いように感じますが、この曲では2ビートで演奏してから、唄が始まるとトラック9と同じ「LidumoLidu-mo-」という4拍子に変化しています。曲の最後にはソングマンによる「Oh- - -」という長くのばした唄の音程は、ディジュリドゥの音を「ド」にした場合「ラ」で、一般的にオクターヴ上であることが多い中、音程が低いことで張り上げない落ち着いた響きになっている。

11.Wongga - Initiation Song

ここからは録音場所を室内に変えたのか、ディジュリドゥの音がしっかりと反響して聞き取りやすい。そして楽器も変えたのか「D#」のディジュリドゥが使われています。

「Lidu-mo」といった裏拍を感じさせるシンプルな2ビートの連続の中に、「Lidumo」という3連符をきざむことで単調さを感じさせないどころか、周期が崩れるように感じさせるトリッキーさを生んでいる。簡単なので今すぐにでも取り入れたい小技です。

12. Wongga - Initiation Song

クラップをたたかないゆったりとした歌唱部分から突然早いテンポのクラップスティックによるブレイクという、このCDでよく聞かれるパターン。長く長く引きのばしたディジュリドゥのリズムは、しっかりとハミングで支えられているのが伝わるる。途中「スゥッ」としっかり息を吸う音が1回聞こえるだけで、それ以外は循環呼吸の音が聞こえないほどスムーズな演奏をしていることに驚く。

13. Wongga - Initiation Song

この曲のディジュリドゥ伴奏は「Lidumor」といった完全な2ビートで演奏されていて、ほぼGUNBORRGダンスソングと同じマウスサウンドになっています。唄の一部には「Nha-e nha-e nha-e」というBelyuenコミュニティの唄に多用されるパターンが使われています。

14. Wongga - Initiation Song

短い歌詞を繰り返すだけの唄ですが、急に上下する特徴的なメロディーラインはどこかサウダーヂ感漂う他のWANGGAの唄のメロディーにはない牧歌的な陽気さがあり、あまり他で聞かれない感じ。

15. Wongga - Initiation Song

このCDに収録されている曲の中で一番ハイボイス。1オクターブ以上上から下降しはじめ、あっという間にディジュリドゥと同じキーまで下がってくる。「E- -」のディジュリドゥでこの高さなので、「F〜F#」くらいの楽器だと唄いにくくなる曲なのかもしれません。

16. Wongga - Initiation Song

このCDでもっとも多用されているリズム「LidumoLidu-mo-」といった4拍子。1種類のメロディーラインの反復のみで終始する唄が多い中、この曲では後半部分に2番目のメロディーラインが追加されています。

これ以降はBandrru、Balga、Moraburr、Djunbaという種類の唄が続きますが、すべてディジュリドゥの伴奏のない唄になっています。アーネム・ランドでは女性が伝統曲の唄い手として参加することはないそうです。しかし、ここではメインの男性のソングマンにからむように女性の高い声での唄が入ってきます。

「キンバリー地域のアボリジナルの女性は、演奏芸術の分野において非常に積極的である。どのような公的なCorroboree(カラバリー : アボリジナルによる歌や踊りの祭りをあらわす英語)においても、彼女達は男性の演者と協力しあって歌同様踊りにも参加する。」ーAlice M. Moyle