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林 靖典 ポートレート 林 靖典 | ヨォルング語研究者・イダキ奏者

オーストラリア在住ヨォルング語研究者 林靖典の「アーネム・ランド単身赴任」

15. Baydhina「気にしない」

■このままの感じでいいんです!

7月5日と6日は学校の作業に追われた。久々にメールをチェックしたので、仕事と学校のメールがたまっていて、なんかいきなりダーウィンの現実に引き戻された感じがして、あたふたしてしまった。それだけコミュニティーでの時間の流れがゆっくり過ぎているのだと思う。

妻が週末によく口にするのは

「ああ、今から何しよかな。時間あるしなぁ.......。」とつぶやいた後に、ハッとした表情で「イヤイヤそうじゃなくて.......。『このままの感じでいいんです!』っていう感覚がダーウィンでは必要なんだってば!」

というフレーズ。時間があるから、何かしようじゃなくて、「時間があるから?」、「で、どうしたん?」という感覚。貧乏性な僕は時間があったら、「なんかせなあかん」と思ってしまうので、いつもせかせかしてしまう。レッドセンターの執筆者カズ君は時々「なんか僕アボリジナル化してきてのかなぁ」とメールで言ってきはることがあるけど、日本の都会でその時間感覚になれたらすごいことですよ!!

■ヨォルングと日本人のマナーのちがい

アーネムランドの空
疲れたときは空やな。

ヨォルング語に対しての対応力がやっとついてきたので、最近、長丁場複数のヨォルングと座っていると、ずぅぅぅぅぅっと、誰が何処に行ったとか、誰が何処で何をしてるとか、昨日の笑い話等々、井戸端会議が延々と行われている。

おそらく皆が一日に何回も何回も隣人や家族の家を行き来して、情報交換をしているので、大抵の話はコミュニティーや周りのホームランドに筒抜け状態になるだろう。

不思議とラミンギニンの様な大きいコミュニティーでも人を探すのはすごく簡単で、通りすがりのヨォルングや軒先に座っているヨォルングに聞けば、かなり高い確率で正しい居場所を教えてくれる。その代わり、探している対象が人から物になると、まったく出てこないことが多々。

例えば、去年の11月、個人的には「これは一生の宝になるわ!博物館級や!永久保存や!」という様なイダキも、コミュニティー内で行方不明になってしまい、半日かかってようやく見つかったこともあった。更に保存状態も悪かったので、もっとしっかり管理しておいてよ、と唸ってしまう。

もう一点唸ってしまうのは、ヨォルングと日本人のマナーの違い。宗教的にはアニミズム(自然崇拝)で幾分共通している部分はあると感じているけど、例えば日本の山中に神聖な大樹があって、その周りを太い綱で巻いてあったら、大抵の日本人はその樹を畏れ多く感じるし、お辞儀をしてその前を通る人もいると思う。

けど、ヨォルングはその樹をボコッと平気で蹴る。つまり、ヨォルングは精神的な部分でつながっていて、物理的なつながりよりも、全くもって精神的なつながりを重視しているからだと思う。物よりも心ということか。

Raminginingの空港
ラミンギニンの空港。週2便ダーウィンから飛んでくる。

確かに大事だけど、その他、色んな場面で理解できないマナーの違いは多々あり。初めてDjaluに会ったガーマ・フェスティバル2004年で「このイダキはね.......」とジャルが説明するときに、そのイダキをペタペタと足で踏んでいたときは正直ショックだったなぁ。イダキは大事に大事に家宝の様に扱われるのではなく(僕は一時期、一番気に入っていた家宝のイダキが冬場にクラックが入るのを恐れて、一緒の布団で寝ていた)、使用しないときはベットの下にあったり、表に出しっぱなしだったりする。

去年ミリンギンビで子供達がイダキを棒高跳びの棒として遊んでいるのを見た時には涙が出そうになった。けど、一転、ビルマは個人個人で大事に保管されているから、すごく興味深い。皆それぞれのビルマを個人所有していて、自分のものと他人のものを区別するために線を引いたり、ジュースのシールをはったり、ビルマにはこだわりと愛着があるのか。いずれにしても、まあ気にしない、気にしないという感覚が大事なときもあるということか…。

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