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林 靖典 ポートレート 林 靖典 | ヨォルング語研究者・イダキ奏者

オーストラリア在住ヨォルング語研究者 林靖典の「アーネム・ランド単身赴任」

16. Matha「言葉」

■ヨォルングの記憶力の凄さ

グルマチとバッファローの後ろ足
奥の鳥はグルマチと呼ばれる、最高級ブッシュタッカー!

7月7日。1週間ほどまったく野菜を食べていないので、だんだん体の臭いが変化してきた。

ラミンギニンの居候先にある調理器具は、トースター以外故障しているので夕食は焚火の上で何かを焼くしかない。

新鮮な牛肉、獲れたての魚、貝、蟹。いまさらながら、ヨォルングは贅沢な食生活しているなぁとつくづく感じるが、ダーウィンに帰ったら絶対野菜食べよう。

昼過ぎから学校作業のまとめをしていて気付いたことがあって、それはヨォルングの記憶力の凄さについて。一回聞いたり、見たりしたことに対する記憶力は抜群だ。

去年の11月頃、とある葬式の場で男性たちがぐるっと円になっている後ろで歌とイダキを聞かせてもらっていた。そのとき、歌い手の一人が日本語を知りたかったらしく、色々なヨォルング語を日本語に置き換えてくれと頼まれた。例えば「ジョーラは紙だよ」とか、「マルワットは毛だよ」とか話した後、昨日まで一切その話題が挙がらなかったのに、昨日の夕方、その歌い手と話していると、その時の日本語単語をいくつか覚えていてくれていた!

ほとんどと言っても過言ではない程、日本語とヨォルング語の音は違うのに、そんな異国の言葉を瞬時に覚えてしまうかれらの記憶力は凄い。以前、学校のヨォルングの先生に教わったことは「ヨォルングは文字で書かれたテキストや映像資料などから歌、イダキ、踊りを覚えるんじゃなくて、その儀礼に参加して、その場で覚えるんだ。だから後に、あの時どんなリズムでイダキを吹いて、どんな歌詞を歌っていたんだろう?と忘れてしまうヨォルングは上のクラスには行けないんだよ」と。なるほどなるほど。

■ヨォルング語と日本語の意外な共通点

言葉について以前から気になっていたヨォルング語と日本語の共通点(個人的見解)。それは日本語の擬態語がヨォルング語の動詞に共通する(発音として)ところがあるということ。例えば、洗面台で水が水道管に流れていく様は「グルグル吸い込まれて行く」とすると、ヨォルング語ではその様を「グルグルユン」と表現し、風が吹く様を「風がビュウビュウ吹いている」とすると、ヨォルング語では「ビウユン」になります。ユン以前の言葉がすごく似ている。その他にも名詞や形容詞でもいくつか似ているものがあって、発見する度に嬉しい。

注). このコラムでカタカナ表記されているヨォルング語の実際の発音はカタカナ発音と大きく違います。例えば「イダキ」の正しい発音をカタカナ表記しようと思うと、

・イ(口を横に開く感じで「イ」)

・ダ(らりるれろ より少し後ろの位置に舌先を当てて「ダ」)

「イ」から「ダ」までの発音は、「ダ」を発音する前に「イ」の音がグニャっとゆがむ感じ

・キ(日本語と同じ)

イダキとテント
キャンプをしていると、僕のイダキに犬がトイレをして去って行った

となって、カタカナ表記では至極難しい発音になります。

このヨォルング語発音の「舌の位置」と「喉の動き」が、イダキの演奏にどんだけ影響しているのか、めちゃくちゃ興味ありです。

7月8、9日……学校の作業以外何もなかったなぁ。牛の後ろ足を解体した以外は本当に何もなかったなぁ。学校、仕事、現地での問題……色々あって少し疲れてきた……そろそろミリンギンビに戻るタイミングかも。

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